ある場所、ある時間 ジェームズ・ベニング 《ルール》@第3回恵比寿映像祭
ある場所、ある時間 ジェームズ・ベニング 《ルール》@第3回恵比寿映像祭
鑑賞者の忍耐の限界に挑戦しているような121分の映像作品。
7つのシーンはすべて固定カメラのみ。なのでズームなし、パンもチルトもなし、もちろんナレーションも音楽もなし。ひたすら風景を映し続ける。
シーン1:最初は自動車トンネルの映像が5分ほど。その間4台の自動車が行き過ぎるだけ。
シーン2:製鉄工場。真っ赤に焼けた鉄塊がこちらに運ばれてくる。
シーン3:森から見上げる空にときおり旅客機が通り過ぎる。やや遅れて木の葉が舞い落ちる。シーンがだんだん長くなる。
シーン4:モスクでの礼拝風景。ちょっと変化があるのでホッとしていると、カメラの前の人が立ち上がる。するとその背中と腰しか見えなくなる。
シーン5:荒野に置かれた壁に描かれた落書きを誰かが器具を使って落としている。ベルリンの壁の残りかも。
シーン6:何の変哲もない市街地の道路。ときどき住人や自動車が行き過ぎる。
シーン7:これが一番長い。60分近くあると思う。巨大な煙突からときおり煙が噴き出る。
同じ煙突をこれだけ長く見ていると、常時少しの煙が出ているが、遠くで小さなサイレンが鳴ってから巨大な煙が噴出されることが分かってくる。それはどうやら5分おきくらいにあるようだ。
風格のある立派な煙突なのだが、一時間に渡ってじっとみるものではない。もう、こうなると会場のあちこちから気持ちのいい寝息がスウスウと聞こえてくる。自分も少しウトウトして、目が覚めたらまだ同じ風景だった。
これだけ長い間、見ているとこの煙突が何だか愛おしくなってくる。名前でもつけてやろうかと考えたが、そうしているうちにようやくエンドロールとなった。
劇映画は没入して我を忘れるものだと思うが、この映像は見ながら色んなことを考えることができた。なかなかできない体験をさせていただいたと思った。
自分も含めてこんな作品を見に来た人たちはどんな人なんだろうとも気になった。