小笠原美環 「ひかりかげ」@1223現代絵画
2008年に国立西洋美でヴィルヘルム・ハンマースホイの大規模個展があり、その後、SCAI THE BATHHOUSEまで足を伸ばして小笠原美環を見たらクラクラしました。
どちらも映像の物語性に圧倒され、その世界にたゆたう悦楽があった。絵画とはこんなに愉しめるものかと思ったものでした。
北欧の冬を思わせる無彩色な世界に効果的なワンポイントの暖色。表情のわからない子どもたちがたたずむ不思議なシチュエーション。デヴィッド・クローネンバーグとかテオ・アンゲロプロスの映画を思わせる映像からは、限りない物語が紡ぎだされてきます。
その後、いろんなところで小笠原美環を追いかけていたのですが、観られたのは昨年のアートフェア東京でわずか1点のみ。
ヨーロッパではパブリックコレクションされてるらしいのだが、今回の個展は国内ではおそらく2008年以来のまとまったもの。ということで、いそいそと広尾に出かけました。
新作、旧作をとりまぜてだけど、今回のタイトル「ひかりかげ」にあわせて選ばれた作品群はディテールが削ぎ落とされ、色彩も無彩色ないしは暗色系でより一層ミニマルだった。
曇り空から殺風景な室内に落ちる頼りない日差しのうつろい。
子どもたちが水遊びしているから夏のはずなのに、ちっとも暖かくない水辺の風景。
暗い舞台の袖で出番を待つ役者たちは誰もが不安そうにしている。
それは心の底に沈んでいた寒々とした記憶が呼び覚まされたかのよう。
前回の個展では何かしでかしそうな子どもの姿が不穏ながらも微温を発していたのに、今回の作品群にはとにかく人物が少ない。カーテンのそよぎやソファのくぼみ、窓際の椅子からは誰かが立ち去ったばかりというような気配を漂わせてはいるが。
まだ若い作家なのにこんなに研ぎ澄まされた映像ばかり作って大丈夫なのかと心配になった。
久しぶりにまとまった点数が観られてよかったけど、あまりのミニマルぶりにかえって欲求不満が高まった。どっかの美術館で個展をやってくれないものか。春先の伊豆・ヴァンジとか冬の金沢21世紀とか夏の青森県美でも似合いそう。国内ならどこにでも行く。
小笠原美環のウェブサイトはこちら。