展示@第3回恵比寿映像祭
ダニエル・クルックスの作品は、太極拳をする老人の映像が、その動きを維持したまま水平方向に引き伸ばされ、時間が経つとまったく違う世界に変化している。映像テクノロジーとしてとにかくカッコイイ。
展示で一番気に入ったのがダヴィッド・クレルボの「幸福なモーメントの諸断面」。
ある広場にボール遊びをする子どもとその家族がいる。その瞬間を数百枚のカメラが捉え、その静止画をスライドショーにしている。
空中に静止するボールを見つめる子どものアップ、ロング、その子どもに寄り添う老人をあらゆる角度から。その家族とは無関係に行き過ぎる人の表情も。
その瞬間を撮るために何個のカメラを用意したのだろうか。
瞬間を切り取るのがカメラとは昔から言われているが、ここまで徹底してそれを実現したことは無かったのではないか。
すでに極めつくされたと言われている写真と映像の試みに、まだ手がけられてないことがあるという事実を目のあたりにさせられた。そして、その取り組みがきわめて美しい作品となって結実している。
黒坂圭太のアニメーション「緑子」のプレビュー映像とスケッチがあったが、これはかなりそそられた。手描きでコツコツと作ってきた映像。自由なイマジネーションがわくわくさせる。
映像上映があったらしいのだが、終わっていて残念。夏に公開されるようなので必須チェック。
スーパーフレックスのマクドナルド水浸しも面白かったが、ハリウッドの大規模セット映像制作からすればこの程度は珍しくないのだろうか。映像を見ながら、不景気で空いたスタジオを活用していっちょ現代アートでもやってみるかと画策する映画業界人のことを空想した。
ツァオ・フェイの作品で久しぶりにセカンドライフを見た。話題になっていた当時から寂しいと思っていたが、今日ではもっと寒々としている。誰かセカンドライフの廃墟ツアーを企画しないだろうか。
作品は未だにバーチャル空間と人間の空虚感を描いていて、驚くくらい遅れている。
展示の全体を見て思ったことは4Kプロジェクタが一般的になったということ。横浜映像祭のときはこれの分配で物議を呼んだらしいが、今日では手軽になったのだろうか。おかげでいずれの展示でも高精細な映像が楽しめた。
あと、展示空間にもアナウンスメントが入るのはいかがなものか。「カルガリ博士」に浸っているときに「ご来場のお客様にお知らせ…」というのが入るのは鑑賞の邪魔になることいちじるしい。