「文化資源としての炭鉱」展@目黒区美術館
小規模な美術館なのに毎度やることが渋い。企画展は膨大な予算があればいいとは限らないということをいつも目の当たりにさせてくれます。
最初のゾーンでは乳房丸出しで過酷な労働に従事する炭鉱の女たちの迫力に打たれます。そもそも炭鉱とアートの関わりは労働運動という政治活動抜きには語れないもの。労働運動のポスターやチラシ、機関紙のアートワークには素朴な楽観主義を信ずるものにしか持ち得ないチカラがあり、今日の「素敵で知的な」グラフィックデザインにはどう転んでも持ち得ないものがあった。あれから日本人の精神はいかに多くのものを失ってきたのかに気づいて愕然とした。
絵画作品のゾーンでは、多くの作家が炭鉱というモチーフに魅せられてエネルギーを注ぎ込み、大量の作品を作ってきたのかがわかる。
軍艦島を描いた滝純一の無機質ながらユーモアのある造形に感心した。
ズリ山という横長の二等辺三角形の斜面にコンベアーがあるというボタ山があり、この形状に多くの作家が関心を持ち、いくつもの作品が結実していることが興味深かった。
いわき市立御厩小学校の生徒が作った、わが町の炭鉱風景を描いた版画が堂々と美術館の一角を占めているのも目を見張った。
炭鉱というテーマとは離れるが、佐藤時啓の長時間露光と手鏡による写真は作家の運動を画面に残す取り組みとして面白かった。
それにしても川俣正のインスタレーションは何とも壮大な時間つぶしをしたという感慨しか残さない。熱意が一向に伝わってこないことが致命的。
決して今日的とも言えない「炭鉱」という具体的テーマを掲げ、見ごたえのある展示会に仕上げた目黒区美術館はエライ!
若い子も高齢者も入り混じった来場者がそれなりに入っているフロアを見ていると、この展示会が時代を見る新たな視点を提起するというアートの役割をしっかりこなしていることがわかった。大満足です。