映画「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」
アムステルダム国立美術館のリニューアルについてのドキュメンタリー映画。2004年に計画がスタートしたのだが、予定を大幅に遅れて2010年の今日に至ってもまだオープンしていない。
計画が難航した最初の理由は中央通路。以前から自転車専用道路として市民に活用されていたのだが、建築家のプランではこれを縮小することに。この計画が発表されると地元のサイクリスト団体が猛反対。公聴会でも市民参加の検討委員会でもこの団体が反対運動を展開し、計画は見直しへ。
一般コンペを通った国立美術館の計画をくつがえすほど、市民団体に影響力があるとは驚き。行政に取り込まれがちの日本の市民協働活動では考えられない。
それが落着したと思ったら次に浮上してきたのが隣接する情報センターの外観問題。周囲の建物と比べて高すぎるなどの理由でどんどん低くなる、小さくなる。当然、建築家のモチベーションは落ちる。
そんなトラブルはそれ以後も続く。それはほんとに序の口と言ってもいいくらい。誰もが、あーあ、と思いながら映画は続いていきます。
さて、リニューアルの間、美術館の職員は何をしていたかというと、展示スペースの計画をシミュレーションしたり、新たな目玉展示物の収集をしたり。しかし、これもどんどん延びるオープンに気分が停滞しがち。
実際、収蔵品が倉庫にあって、簡単に手をつけられない状態では仕事もないでしょう。だから、こんなときは収蔵品の貸し出しを積極的にするとか、巡回展でもすればいいのにと思いますがどうなんでしょう。
そんな時期の職員の活動で気持よかったのが、ある大作の修復。大きな刷毛で巨大なキャンバスに薬品を塗りまくると、くすんでいた表面にみるみるつやが出ていく。担当者が「興奮するわ」とか言いながら気分よくやっていたのが印象的。
先日観た「パリ・ルーヴル美術館の秘密」とは違って、こちらは出てくる人がすべて饒舌。館長も建築家も担当の役人も遠慮無くぶちまけています。
ただし、市民団体の発言は少なく、せいぜい公聴会かプレス発表という公の場のみ。そんなところから監督が美術館と行政の側に立って映画を作っていることがうかがえます。
その方が登場人物のキャラクターが明確になり、映画としては楽しいものになっているが、ドキュメンタリーとしての立ち位置は気になった。
美術館の裏側が分かるこんな映画はアートファンにはたまらないはず。しかし、映画の高みとしてはルーブルの方がはるかに上に行っていると思う。