渡辺豪「lightedge 境面Ⅱ」@アラタニウラノ
何冊も本が積み重ねてある。その本はすべて束、つまり開く方がこちらに向けられている。
そうした映像なのだが、じっと見ていると少しずつ下に移動している。動いているのが分からないくらいゆっくりと。
別の映像はありふれたマンションのキッチン。その向こうの窓の外は暗くて何も見えない。
どうやらすぐ外に街灯があるようで、その光がかすかに室内に差し込んでいる。
そうしたありふれた映像なのだが、どこか違和感がある。ギャラリーにいた作家に聞いたら、すべて3Dコンピュータ・グラフィックスなのだそうだ。
そう聞かされると、逆にコンピュータ・グラフィックスならではの無機質な感じがないことに気づく。
違和感があると書いたが、その違和感は不快なものではない。
どこか懐かしく、子どもの頃こんなふうに、暗い部屋の片隅でずーっと冷蔵庫を見つめていたことがあったことを思い出した。
誰も見たことのない映像を創るためにコンピュータ・グラフィックスを使うのではなく、どこかで見たことのある景色を創るために使う。それが作家の意図かどうかは分からない。しかし、もしそうだとしたら、この映像を創る道具の使い方は確実に深化しているのだろう。
心が安らぐ、いい時間を過ごさせてもらった。
作品は他にもいくつかあり、事務室の本棚にまでプロジェクタがセットされている。このギャラリーはいつも気持よく事務室まで入れてくれて、ウェルカムな気分にさせてくれる。以前やった西野達の個展のときは、事務室の壁を街灯がぶち抜いても、困った顔してうれしそうだったし。