鈴木清写真展 百の階梯、千の来歴@東京国立近代美術館
1960年代から活動し、2000年に亡くなった写真家。
自分の出身と関わりのある炭坑街や旅芸人、ホームレス青年、サーカス、アジアへの旅などを対象にして自己の内面を写しとるような作品。観ていると心がヒリヒリするものが多い。
初見であれば好ましく思えないような写真が多いが、こうした展示会に行くとアートは作品がすべてではないことを認識する。作家の生きた時代、作家の人生、制作された時期、それらの背景もひっくるめて作品と対峙することが鑑賞なのだと思う。
そうした背景を理解するために図録が製作され販売されているのだろうが、最近ではアートアーカイブを展示することも多くなってきた。
この展示会では、写真集を作ることに激しく熱意のあるこの作家の手による、書籍ダミーが多く展示されていた。コピーを貼り込み、赤ペンで書き込みされたダミーは作家の生前の息づかいを確実に伝えてくれる。
彼は生涯で8冊の写真集を出版したというが、1冊を除いてすべて自費出版だった。つまり編集者の関与というか介入が希薄であるためか、彼の編集行程の記録はもしかすると作品そのものよりも生々しく彼の情感を伝えてくるように思える。
そして、会場ではもう入手困難になってしまったそれら写真集の実物を、白手袋をはめて手に取ることができるのもうれしい。
また、自らの個展の会場構成指示図もあり、展示レイアウトの指示が試行錯誤の跡も生々しく細かく描かれている。彼の死後、家族や関係者がこの指示書に基づいて個展を開催したというのも泣ける。
展示会の図録がコンパクトで装丁が素晴らしく、思わず購入してしまった。