「劇的な人生こそ真実 私が逢った昭和の異才たち」萩原朔美(新潮社)
萩原朔太郎の孫、萩原葉子の息子。そういった血筋があってこそかもしれないが、アングラ文化が花開いた昭和の時代に、彼が出会った多くの文化人についての個人的な思い出をつづったエッセイ。
彼は若くして寺山修司率いる天井桟敷で演出家を経験したり、パルコでビックリハウスを企画したりとうらやましい限りの青年時代を過ごしたのだけれど、自ら選んでごく普通の会社員生活を送らなかったのか、それとも血筋がそれを許さなかったのか、という彼の人生観についても読みながら考えた。
才能と能力とエネルギーにあふれて、次々と大きな事業を進めていく人々に囲まれていると、ある瞬間にふと省みる自分のあり方を冷静に解釈することができるのか。それとも社会や組織の大きな動きに自分を空疎にしておくべきなのか。
この本を読んでいて、土方巽、森茉莉、寺山修司など昭和の異才についての興味深いエピソードよりも、自分の人生を省みるようなことばかりを考えてしまった。
それでも一番楽しめたのは、彼の母である萩原葉子の再婚をめぐる記憶についてのエピソード。
ここには離婚した母とその恋人(らしき人)、そしてまだものごとがよく分かっていない子どもそれぞれの思惑と思い違いがあって、普通の家庭らしい微笑ましさがあった。