ヘンリー・ダーガー展~アメリカン・イノセンス。純真なる妄想が導く『非現実の王国で』
ヘンリー・ダーガー展@ラフォーレミュージアム原宿
最も有名なアウトサイダー・アートの作家であるダーガーの個展。
日本では1993年に世田谷美術館でグループ展が、2007年に原美術館で個展が行われ、2008年には「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」という映画も上映されている。
ということで、彼はそこらの中堅作家よりも、はるかに世間に知られている「無名」作家である。
原宿のラフォーレということで若い女性比率が異常に高い展示会だった。
作品そのものは技法に見るところがなく、社会性や文化的文脈も感じられず、数点見れば十分といったところ。しかし、とにかく絵を見たというよりはたくさん文章を読んだという展示会だった。
そもそもダーガーに興味がある人は、作品そのものより彼の人生や精神に興味があるのだと思う。
そのせいか、展示会場では入口近くに設置されたパネルで、彼の人生についてや作品が発見される経緯などを詳しく説明している。
パネルでは「非現実の王国」の内容についても多くふれており、小説には気象に対する彼の異常なこだわりが如実にあらわれていることが分かった。
また、会場奥では彼の部屋で発見されたスクラップブックや水彩絵具の実物が展示されており、世間に知られることのなかった彼のリアルな人生の一端が感じ取れる。
出口近くのパネルでは作家、精神科医などの文化人が彼について熱っぽく語っていた。これを読むと私には彼らがダーガーをひとつのスノッブなアイテムにしているのではないかと感じられた。
「非現実の王国」はもともと1万5千ページに及ぶテキストであり、絵画はその挿絵として描かれた300点に過ぎない。彼の精神世界を読み解くのであれば、絵画ではなくテキストの読み解きをしなければならないと思うのだが、私が知る限りこれに踏み込んだ文化人はいないからだ。
アウトサイダー・アートを作品としてどう評価するのか、あるいは特異な精神世界の表出としてとしてどう評価するのか、社会論としてどう評論するべきなのか。多くのことを考えさせる展示会だった。