『ミン・ウォン: ライフ・オブ・イミテーション』@ 原美術館
ミン・ウォン「ライフ・オブ・イミテーション」@原美術館
一度見たら忘れられないヘンな一人芝居「Four Malay Stories」は2010年の恵比寿映像祭でも見た。多様な民族と多彩な文化が共生するシンガポール。その国の映像作家の作品は、多層的な読み取りが出来るものだった。
「イン・ラブ・フォー・ザ・ムード」は夫が浮気をしているのではと疑う妻が、知人を使って夫を問い詰めるリハーサルをするシーンのリハーサルの映像。しかも、妻役を演じるのは白人の女優だが、言語はマレー語。
白人のふりをして生きてきた黒人とのハーフ女性に最後の別れを言いに来た母親とのシーンを、マレー系、中国系、インド系の俳優(しかも男!)が入れ替わりつつ演じるという「ライフ・オブ・イミテーション」。
繰り返されるシーンに認識が混乱して、もはや人種や言語はどうでもいい感じがしてくる。そこに残るのは人が誰かの役を演じるということの不思議さ。
最終的に映画になるのは一番良かったテイクだけ。でも、それまでに数限りないリハーサルが行われているわけだ。役者がそうして他人の動作を繰り返していることはものすごく奇妙なことではないのか、とあらためて認識させてくれる。
とても興味深い映像作品で本来ならシンガポールというかアジア文化の多様性や深みが垣間見えるのだろうが、私にはそれを理解できるだけの体験も知識もなかったのが残念。
1950年代の映画ポスターや当時の映画館の外観写真など、シンガポール映画産業のアーカイブも楽しめた。
これはやはり恵比寿映像祭(2010年)のシンポジウム「失われた映画史-シンガポール映画の黄金期」でも見た。その時のトークをしたのが今回の巡回展示のキュレーター、タン・クーフェンだったのか。
このシンポジウムでは、映画製作という切り口からアジアを見ると各国の多様なつながりが浮かび上がってくることを教わった。シンガポールの映画産業には、アメリカ映画の影響はもちろんだが、日本映画の制作者がキープレーヤーとして活躍したことも、フィリピンの映画産業の資本的影響があったことも。