山本糾 光・水・電気 Tadasu Yamamoto Light, Water, Electricity
山本糾「光・水・電気」@豊田市美術館
豊田市美術館は名古屋からJRと名鉄を乗り継いて1時間ほどの豊田市駅で降りて、徒歩15分のところにある。トヨタ自動車の本社がある街で駅前はそれなりに賑わっているが、よくある地方都市。しかし、小高い丘を息を切らせて登ってゆくと、美術館建築のお手本のような気持ちのいい空間がある。
山本糾は8×10の大判フィルムを使う写真家で、モノクロながら目が醒めるような高解像度の大判写真を撮る。大きな窓や天井から外光を柔らかに取り込む展示室によく合う、シャープな作品群だった。
ここでは毎日13:30から学芸員によるギャラリーツアーがあるらしく、時間があったので参加させてもらった。
「暗い水」と題した高地の水辺の風景を写した作品は、日没後15分くらいからのフラットな光を求めて、その時刻に大判のカメラを運びあげて撮ったもの。また、平城京近くの陵墓の水辺を写した「Jardin 磐之媛陵」は対象を正面から写している。トークにはそうした風景写真のテクニックが満載で、カメラファンらしき人たちがメモを取りながら参加していた。
本来は澄んでいる石狩川の水面を曇り空に真上から撮影し、硬質な波として表現した「考える水」や、採掘場の岩山の表面を立体感を排除して撮影し、物質や風景ではなくテクスチャとしてとらえた「時間の庭」も面白い。そこにはもったいつけたテーマがなく、ひたすら技術をつくして対象をフィルムに焼き付けるという行為がある。
テーマの深さやモチーフの面白さを追求し、それを作品だけでなく言葉でも語ろうとする写真家が多いなかで、このように技術に重きをおいた写真家の姿勢に新鮮さを感じた。見終わってみれば、山本が彫刻家から撮影を依頼されることが多いとのトークの言葉に納得できた。