成層圏 Vol.3 下道基行@ギャラリーαM
そんなに気に入っている作家ではないのに、炎天下の中を馬喰町にまで出かけてしまう。コンセプチュアルな作品を作る作家であり、作品のテーマは「旅」だと思う。そして彼の旅空はいつでも晴れだ。
今回の個展期間中、彼は小さなバイクで日本全国を旅し、写真を撮ってメールで送ってくる。被写体は「渡し板」。小さな水路に渡された板や漁船に渡された板。それをギャラリースタッフがプリントし、ギャラリーの壁にぐるりと貼っていく。私が行ったときは既にすべての壁をめぐり、2段目に入ったところだった。
下道もあの震災以来、自分の活動を見直した作家だった。そして、その具体的な成果がこの個展。
(前略)3月11日以前と以後、自分と世界の間を少しずつ繋げていこうとするアクションだ。まず、自分ひとりでできることからはじめる。速度を落としながら、移動する。そして、ていねいに自分の周囲を見回してみる。風はどちらの方角から吹いてくるだろうか?明日は雨だろうか?そんなささやかすぎる問いすら、少し意味が違って聞こえる日々の中で。(後略)(風に吹かれて 高橋瑞木 展示会チラシより)
こうして立ち止まり、自分の周囲を見渡すことがあの日から4ヶ月を経た今日の、人としての真っ当なあり方なのだと思う。そして、実際にそうしている人の姿を目の当たりにしてすがすがしい気持ちになったのは、相変わらず以前と同じ毎日がこれからも続くと思っている人があまりにも多いからか。