戦争と日本近代美術@板橋区立美術館
板橋区美の収蔵品から戦前・戦後の作品をチョイスした企画展。会期終了間近の土曜日なのに雨でガラガラ。しかも入館料無料なのに、もったいない。
末松正樹は戦前に舞踏家として渡仏し、その後パリでの美術家活動を続ける。第二次大戦の開戦後、マルセイユで日本領事館の仕事をしていたが、戦争末期にフランスの捕虜となり戦後まで抑留される。
映画になりそうなドラマチックな人生。その抑留期に描いたデッサンやスケッチが展示されていた。
別スペースでは戦前の日本のシュルレアリズム作家の作品が何点があったが、いずれもダリの影響がありありとしている。いわく草木の生えない荒野に人物がたたずみ、不定形のオブジェが配置してあるといったような。
こうした風景は日本人にとっても一般的な無意識や夢の記憶なのだろうか、と疑問に思った。ただ、当時の日本人にはこうした空漠とした空間へのあこがれはあったのかもしれない。
さて、典型的な翼賛会的作品「貯蓄報国」(新海覚雄)が素晴らしかった。郵便局か銀行の窓口に列をなす引き締まった表情の人々、事務員の若い女の優美な動作。テーマはどうあれ優れた絵画に必要なすべてがある。
キャンバスに絵の具、筆があり、テーマが与えられ、腕に覚えがあるならばいい仕事をしたくなるだろう。その結果がここにあるのだと思う。
戦争画といえば国立近美にすべてがあるのかと思っていたが、板橋区美でこんなに素晴らしい作品に出会えるとは思わなかった。感動。
また、麻生三郎、井上長三郎、松本竣介などを擁する新人画会の作品や山下菊二、池田龍雄の作品も板橋区美の収蔵と知ってコレクションの充実ぶりを再確認した。
山下菊二「汝、煙となるなかれ」、池田龍雄の「アメリカ兵、子供、バラック」や「僕らを傷つけたもの―1945年の記憶―」、井上長三郎「ヴェトナム」など各地の美術館の企画展で見たことのあるものも多い。中村宏の「冨士二合」は初見だったが、暗い爛熟の森と崇高な空の表現に感動した。
ところで、今回展示されていたアーカイブがとても興味深い。作家に対する芸術慰問活動への要請や、戦中に作家に配られた絵画道具の配給票である。
配給票は「社団法人日本美術及び工芸統制協会」という団体から、作家に画布(キャンバス)を以下の画材屋で購入してもよいというクーポン状のもの。戦争協力や翼賛絵画への批判は理念的なだけではならない。研究者は作家の創造性を締め付ける具体的な方法を、こうして目のあたりにするべきだろう。
ここの美術館は、戦前、戦中、戦後の池袋周辺の前衛作家たちというコレクションのコンセプトがしっかりしている。
とても予算がありそうに思えないのだが充実した企画展、そしてそれを支えるボランティアらしきフロア係による手作り風の運営に来るたびに感心する。自治体はこれからもぶれずに、この文化施設を支え続けていただきたいものだ。