所蔵作品展「近代日本の美術」@東京国立近代美術館
先日、岡本太郎展に行ったときは2階以上がクローズだったので、その時渡された招待券で再訪。人の少ない常設フロアーを満喫した。
もう定位置のルソーのアンデパンダンの女神の天真爛漫ぶりに、誰もが自分の作品を自由に発表できることのありがたさを思った。
日本画では川合玉堂の「行く春(1916年)」が楽しめた。人里を離れた峡谷。そんな山奥にも桜は咲き、花びらを散らす。それを愛でるのは老爺のみ。人の営みと無関係な春のあり方に日本的な物語のベースがある。
それにしても近美4階の休憩室から見るお堀と皇居の景色は素晴らしい。この季節はここでゆっくりするためだけに常設のチケットを買っても惜しくない。
展示替えで野田英夫の「帰路」が出ていた。シャガールを思わせる作風だが、野田ならではの内省と故郷への慈しみがある。悩みと歓びの交錯した帰路らしいが、左足は力強く一歩踏み出している。
写真コーナーは「表現者たち」と題して作家のポートレートが特集されていた。有名な林忠彦が撮ったルパンでの太宰治や細江英公の三島由紀夫など。
ここでいちばん惹かれたのが、アンドレ・ケルテスという方の「モンドリアンの眼鏡とパイプ、パリ」と「モンドリアンのアトリエ、パリ」という小品。直線と曲線、そして影のグラデーション。画面構成に必要なすべてがここにある。
展示替えの度に楽しみにしているのが戦争画。
今回は中村研一の「コタ・バル」と栗原信の「湘江(しょうこう)補給戦に於ける青紅幇(せいこうほう)の協力」。
中村の迫力ある表情もよかったが、栗原のモチーフが強く印象的。
大河で暮らす人々の小舟を舞台にした戦闘場面なのだが、血を流して倒れる父親と子どもを抱えて帆を操る女。そして怯えたように空へ小銃を向ける兵隊。その一方で夕暮れの大河を覆う叙情性。
民を描く戦争画は自ずと単なる戦争賛美になりえないことが伝わる。
2階の現代美術のコーナーでは中村宏特集。
「円環列車・B-飛行する蒸気機関車」などがあったが、特に中村が手がけた「現代詩手帖」1969年1月から12月号までの表紙が展示されており、グラフィックデザインのモチーフとしてのひとつ目セーラー服の強度に感激した。
中村のトークのビデオがかかっていて、これの中で「グラフィックデザインへの展開は自分の絵画作品の再利用である」と語っていたのが興味深かった。
今回の常設からの新しい取り組みなのだろうか、「テーマで歩こう マチエールの魅力」と題したパンフレットが配られていた。一部の展示作品にパネルが追加され、このテーマに基づいた解説がされている。
教育プログラムの展開としていい取り組みだと思う。