映画「アトモスフィア」
インディーズながら完成度の高い映画だった。もっとぶっ壊れたところがあってもいいのに、と思うくらい達者だった。最近の若い監督はソツがないと思ったら、監督の佐々木友輔はすでにいくつもの賞をとっている中堅だった。
流産してから夢を見て眠れない妻とその夫の会話。妻のバイトであるテープ起こしの言葉。それらがやがて明らかにしていく夫婦の関係、この街の状態、この国のありさま。
それらの言葉を浮かべる映像は、ありふれた郊外の風景を手持ちカメラで捉え、それがときどきデフォーカスしたりしてる。また、PCモニターの文字変換もアクセントになっている。
いずれにしても低コストがまったくマイナスポイントになっていない。むしろ、逆手に取ってセンスの良さを際立たせている。最近の若い映像作家はビデオというものを生理感覚にまで引き寄せている。
これはビデオならいくら撮っても構わないということの帰結なのか。フィルムの場合、現像、編集、上映を考えてカメラを回すことになり、ためらいとか慎重にとかが先に立つものだったが。
ただ、本作は子どものいない夫婦のあり方に現実感がなく、もう少し生々しい関係でないと納得はできない。また、フクシマについてを取り上げているのだが、このままではそれが単なるアイテムとしてしか受け取れない。今後はテーマの深化に期待したい。