映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」
グラフィティアーティストのバンクシーによる映画。バンクシーの作品が中心になるのかと思いきや、ミスター・ブレインウォッシュというアーティストについてのドキュメンタリーだった。
このミスター・ブレインウォッシュが、あれよあれよという間にLAのアートシーンで注目されていく様子も面白いし、それにバンクシーさえもが翻弄されているのが笑える。
彼はアートに何の関わりもないビデオマニアの古着屋オーナーである。ひょなきっかけでグラフィティアートの記録をすることになり、その業界で重宝されるようになった。
やがて、自分でも作品を制作することになり、資産をつぎ込んでアートスタジオを開き、作品を量産していく。展示会が話題になり、作品の価値もうなぎのぼりに。
こうした事例を目の当たりにすると、現代アートのマーケットは病んでいると思わざるをえない。美術史の文脈や評論の不在によって、需要のみが作品の価値を決定する要因となっている。そして、このプロセスには制作する喜びとコレクションによってそれに関わる歓びが不在なことが見ていて不愉快にさせる。
ブレインウォッシュ自身は素朴で痛快な奴なのだが、それをとりまくマーケットやメディア、セレブの関わり方にアート作品に対する尊厳がない。バンクシーらグラフィティアーティストには、世間をびっくりさせてやろうという面白がりの気分があふれているのが救いだったが。
それはそれとしてこの映画では、撤去されることが前提の「作品」を、犯罪すれすれのやり方で「展示」するグラフィティアーティストの実態が垣間見えて興味深かった。グラフィティアートに関するもっと包括的なドキュメンタリー映画や書籍がほしくなった。