映画「聴こえてる、ふりをしただけ」
母を亡くした小5のサチ。しっかりしているように見えるが、大人の何気ない一言、例えば「お母さんはいつでもあなたのそばにいるよ」という言葉に惑わされる。正気をなくしていく父にも揺らぐ。そうした困った日常から、サチが自分を取り戻していくまでの物語。
ドラマや映画や小説でよくあるステレオタイプではなく、しっかりしていたり、不安定だったり、知識豊富だったり無知だったりする、小五女子のリアルな内面を静かに描いている。
そもそもこうだと決めつけたり分析したりすることが不可能なのがこどもの心。その上、女の子だからさらに複雑なんだろうなと思う。そうした、曖昧な存在をそのまま表現するには映像は有効な手法なのだろう。見終わってもやっぱりよくわからない。でも、少なくともそんなものなのだということが分かった。
映画は低予算なのだが、あとで聞いてびっくりしたことに、監督の今泉かおりは看護師で長女の育児休暇期間中にこの映画を撮ったという。それはプロフェッショナルによるチーム制作が基本の、映画というメディアならではということもあるだろう。こうしたカジュアルな映画製作がもっと実現するようになると日本の映画は面白くなると思う。
それにしてもこの子どもの世界を描く映画を通じて、男の子の存在感がまったくないことが痛快だった。小五女子の世界では男の子というのはたぶん、存在しないも同然なのだろうな、それがリアルなのだろうなとも思った。