失敗の本質―日本軍の組織論的研究(中公文庫)
ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦を取り上げて、日本軍がなぜうまく行かなかったのかを組織論から解釈している。
1984年刊行だから日本の製造業が世界に活躍しており、日本式マネジメントに自信を持ち始めた時代。しかし、この本には日本軍への批判と同等、ないしは同量の米軍の戦争遂行能力への高評価がある。新たな近代史解釈から再度、これらを再評価してみるのも興味深いことだろう。
米国の戦争終結に向けての計画は、フィリピン、沖縄、本土であり、そのままに推移している。本書はこれをほぼ手放しで評価しているのだが、わずか数年後に朝鮮戦争があり、その後に冷戦、中共の成立などを考えるとどうだろうか。
米軍には中国本土と台湾を確保するという計画もあったと本書にもある。日本戦の勝利という成果のみを求めて、それから先への見通しを欠いていたとは言えないだろうか。
米軍の人事制度にも評価が高い。しかし、進駐軍内の派閥争いや、朝鮮戦争処理の結果としてのマッカーサーの更迭を見ると、本書で言われるほど機能しているか疑問が残る。
その人事制度とは、上官と部下の馴れ合いを避けるために数年おきに移動を義務付けるというもの。今日の日本でも官僚や自治体では普通に行われている。しかし、それが業務の習熟や分野への熱意を削いでいるという現象も目の当たりにしている。
本書は戦争や歴史を対象にするものではなく、組織論のみを対象にした「ビジネス書」である。その分、理論が短期的評価にさらされることになった。現代となってはおおむね陳腐である。