展覧会情報映画をめぐる美術 ――マルセル・ブロータースから始める
映画をめぐる美術――マルセル・ブロータースから始める@東京国立近代美術館
うかうかしてると終わっちゃうので行ってみた。ここしばらくでは一番おもしろくて、こんな面白いもの見逃すところだったのかと安堵。
タイトルのマルセル・ブロータースという人は知らなかったが、今回の展示会で特に重要なわけではないと思う。近代から現代にかけての映像とテキストをモチーフとした作品群は、ひとつひとつがアートとしてじっくりと楽しめる。
アナ・トーフの「偽った嘘について」という作品はフィルムスライドとテキストによるもの。スライドは中年の女性の憂鬱そうな表情を次々と映し出し、ときおりテキストが挟まれる。それにはジャンヌ・ダルクが異端審問のとき聞かれたことが書いてあるらしい。
カシャッという音とスライドのタイミングは観客にモノを考えさせるのに適していることに気がついた。ビデオやパワポのスライドとはまったく違う映像体験。プレゼンをするときに心がけようと思った。
それから西欧人はジャンヌ・ダルクといえば、改革、女性、悲劇、歴史などをすぐに思い浮かべることができる。それであの削ぎ落とした構成でも、すぐに作品の深みを感じ取ることができるのだろう。日本の歴史的人物ならそれは誰だろうとも考えた。利休?
ヨコトリ2014でもスライドを使ったパフォーマンスがあるそうだ。映像とパフォーマンスをつなぐこのテクニックは、いま見直されているのかもしれない。
ピエール・ユイグの「第3の記憶」は、映画「狼たちの午後」のベースとなった実話の銀行強盗を取り上げたビデオ作品。銀行強盗本人を現場のセットに連れてきて、事件の再現を行う。
当時から時間が経っていることもあるが、映画化されており本人がそれを見ていることもあり、現実からかけ離れた部分もある。それが映画のシーンやニュース映像を挿入することで明らかになる。
つまり自分の記憶と、映画の記憶と、映画によって歪められた記憶が映像として展開される。映像としても楽しめるが、読み取りの深さという楽しみもある。優れたドキュメンタリー。
アルバニアの映像作家アンリ・サラの「インテルヴィスタ」は、学生のときにみつけた母親が映っているフォルムについての追跡ドキュメンタリー。母親は当時、共産主義国だったアルバニアで革命闘士だったのである。そういえばフェリーニに同じタイトルの映画があったな。
このフィルムには音声がない。それで何をしゃべっているのか知りたくなった彼は、読唇術の専門家に読み取りを依頼。すると意外な事実が判明する。
過去を記録するフィルムと記録されている本人の認識の差、思い出したくない過去とそれを追跡するジャーナリズムなど、多くの問題をあぶりだす作品だった。
ミン・ウォンのシンガポールの豪華な映画館の写真集は以前、写美でみた。そのとき聴いたアジアの映画産業に日本の占領期が残した遺産についての講演会が面白かったのを思い出した。
資生堂ギャラリー以来お気に入りのダヤニータ・シンは、「ファイル・ルーム」というインドのアーカイブルームの写真集。うずたかく積まれて探し出せそうもないファイルの山を見ていると、タブッキの「インド夜想曲」の病院を思い出す。
ああいうファイルの山を見ていると、むしょうに整理・分類したくなってくるのは自分が日本人だからかな?
田中功起の部屋がいちばん狭くて細長くて居心地が悪かったのだが、「ひとつの詩を五人の詩人が書く(最初のこころみ)」というビデオを最後まで見てしまった。あれは70分近くあったのか。
タイトル通り五人の詩人が集まって、いろいろなやり方で詩を作るのをとらえたビデオ作品。関心したのはカメラワークなどプロダクションの本気度。
テーブルの周りにドリー用のレールを敷いて、セカンドカメラ、サードカメラを設置。録音も本格機材でスタジオ録音のような鮮明さ。詩人たちが創作するというスリリングな行為を心地よく集中して鑑賞できて大満足だった。
それはつまり、これだけ本気で詩人の行いを映像に収めるという行為はこれまでされてこなかったということである。制作それ自体があっぱれなことなのだ。
田中は作家なんだけど詩人じゃないので映像には登場しないところもいさぎよい。これは昨年のベネチアビエンナーレの出品作。
それにしてもいつもの特別展のスペースの半分しか使っていない。映像作品の展示会なのだから隣の音が聞こえないように広く使えばよかったのにどうしてだろう。
アイザック・ジュリアンの3面マルチの作品も狭くて壁に貼り付いてみることになってたし。そこが残念。
今回の常設も映像作品づくしで、私はじっくりと楽しみました。
小ギャラリーでは藤井光という方の高画質映像が戦慄した。美しい木立を明け方からしばらく定点カメラでとらえたもの。しかし、これは福島第一原発から数キロの位置で、その美しさとはうらはらな放射線量のカウントが表示されるというもの。
あと、大友良英らがかかわったプロジェクトFUKUSHIMAのドキュメンタリー映像があった。巨大風呂敷のステージが感動的。あとチンポムがいくつかあったがいつものようにスルー。
3Fの映像ルームで見た岩波映画社の映像風土記「長崎県」が楽しめた。軍艦島(端島)の最盛期の映像も貴重だが、大村の入国センターの映像は帰国事業が始まる前のことで、この事業が動き出す大きなきっかけとなった事件である。
絵画では北脇昇の初見がいくつかあったのが収穫だった。