映画「日本と原発」
全国の原発関連訴訟に関わる弁護士たちによる、脱原発ドキュメンタリー映画。
おおむねすべての原発問題のトピックスを網羅しており、しかもそれらをきわめて手際よく解説している。この映画を何回か見て、手元に資料があれば、すべての推進派の議論を論破できるのではないか。
その意味でこの映画は、これからの脱原発を考える上では必見の作品。原発映画のスタンダードの位置を得たと思う。
ただ、映画に登場するのは小出裕章、古賀茂明など名のある論客ばかり。被災者の声は一部にとどまる。上におおむねすべてのトピックスを網羅していると書いたが、唯一足りないのは地元経済の問題だと思う。
この映画にあるような高級な議論がありながら、川内原発の地元議会では再稼働が認められた。それはおそらく、地元では再稼働を是とする声のほうが大きかったということだろう。つまり、土建業は言うに及ばず、旅館、定食屋、商店など、原発で潤っている一般人は再稼働を求めているのである。
そもそも原発が立地したのは疲弊がすすむ地方である。つまり地方の疲弊、中央との格差というのは近代以降の日本の課題。原発以前からある問題である。そしてもし、原発がなくなってもその問題は残る。極論すれば、これを原発の問題に卑小化してはならないのではないか。
そうした地方の課題は、被災した人々の声をたんねんに拾い上げるといった素朴なドキュメンタリー映画を見るほうが伝わる。この映画はプロによるプロフェッショナルなものである。そのおかげで、素朴なドキュメンタリー映画の価値をも再照射することにもなった。
大きな会場で、500人くらいは入っていたように見えた。すごい動員力である。また、よくある脱原発イベントとは違ってスーツ姿の男性が多い。もしかしたら法曹関係者かもしれないと思った。
河合弁護士(監督)のアフタートークでは最後に飯舘村の歌で締め。役者が一枚上だなと思った。