植田正治とジャック・アンリ・ラルティーグ -写真であそぶ-@東京都写真美術館
植田正治とジャック・アンリ・ラルティーグ -写真であそぶ-@東京都写真美術館
シャッタースピード、絞り、被写界深度。写真を始めた頃はテクニックで相当遊べるので夢中になるのだが、いつか小難しい理念に流れてしまう。でも、このふたりはずっと写真機で遊んでいたのだなと感じた。
植田は砂丘という天然のスタジオで家族をモデルに写真を作りこみ、ラルティーグは家族の外出やイベント、日常を思いつきのようにスナップ。普通の人が写真を撮る正しい心構えをここに見た。
しかし、アマチュアとは言いながらも植田はそうとう手馴れている。初期の「船」や「停留所の見える風景」のモノクロハイコントラストはかなりの現像技術によるもの。あるいは何回もの試行錯誤の結果か。
考えてみるとフィルムなので焼いてみないとわからないという当然のことを今日では忘れがち。こうした成果を出すまでの苦労を考えると気が遠くなる。
それにしてもシリーズ「童歴」の愛らしさ。一本道の向こうから学校帰りの女児がやってくる3枚組があるのだが、「またあのおっちゃん撮ってる」という表情からあちらとこちらの微笑ましい関係がよく見える。
あと、「音のない記憶」シリーズは珍しく植田が西欧で撮ったものなのだが、これがまたどこに行っても植田らしいシーンの選び方だった。
ボックス置きで植田の死後に奥さまがまとめた未発表作品群「僕のアルバム」というのがあった。この若い奥さんのキュートなこと!また、着物の柄が大きめの格子でとても洗練されているのが印象に残った。
会場構成もよかった。大きさの統一されたフレームが均等に配置されていて同じペースで順番に見られる。最近では大きいのがあったり平置きがあったりと凝った展示が多いなか久しぶりに落ち着いて鑑賞できた写真展だった。