発信//板橋//2013 ギャップ・ダイナミクス@板橋区立美術館
発信//板橋//2013 ギャップ・ダイナミクス@板橋区立美術館
国内の作家によるグループ展。現代社会を真っ向からとらえた作品群だった。
金沢寿美の「出窓のカーテン」は震災ガレキを想起させる割れタイルを使ったインスタレーション。自らの神戸淡路震災の体験を文章にし、書籍に製本。本当にずっしりと重い書物だった。
丸山常生「発生源としての場所」は祖父の遺品からインスパイアされたインスタレーションだけかと思ったら、壁面の小さな穴からこの美術館の収蔵作品をのぞき見るという趣向。福沢一郎「憂川」が見えた時は懐かしかった。
いちばんよかったのは中津川浩章。大きめのキャンバスにほぼブラックのみで描かれた心象風景。
「記憶の海・私たちはどこに行くのか」は多くの人間が水辺にいる風景で、どうしてもツナミ映像を想起してしまう。子どもを抱える人、ネコ耳のような人、中央の人はこちらをまっすぐに見ているような。しかし、いずれの人もひとりではなく誰かといることが鎮魂の感じを与える。
これの右手にある「光の船団III」。多くの船があるが漂っているのではなく、いずれも方向を持っている。それが救いのイメージを喚起する。ほぼブラックのみなのだが、かすかにパープルを見ることができる。それが鎮魂の感じを増幅する。
別の部屋には彼の組ドローイングがある。路上、公園、人物など日常のモチーフが不穏なノイズを漂わせている。それが中央にある水平線の映像に集束していった。日常>水平線>空という意識の導線がとても心地いい。
屋外の大矢りか「立ち尽くす木」はケヤキを利用した巨大な船。数ヶ月かけてコツコツと作ったらしい。周辺の住民や公園利用者も毎日楽しみにしていただろうね。こんな制作がこの美術館らしくてうれしくなった。
この美術館は年に1回くらいしか来ないのだが、来るたびに監視員のホスピタリティに感心する。ちょっと質問するとあふれんばかりの知識と作品への愛情が伝わってくる。
戦前の池袋周辺の洋画家というコレクション方針もはっきりしている。
駅から遠いし、小さな美術館なのだが熱意のある運営と地域の理解に支えられているのだろう。小規模自治体による美術館運営のお手本とすべきものだと思う。