「私のなかの彼女」角田光代(新潮社)
偶然入手できたので久しぶりに読んだ角田光代。しかし、これはダメだった。
私は角田の大ファンと自認するものだが、読んでよかったものとダメなものがある。「対岸の彼女」「森に眠る魚」「八日目の蝉」は心ゆくまで楽しめた。再読もした。いずれも普通のダメ男とダメ女の極限状況を、きわめて閉塞された視点で描き、最後には約束されたわけではない「救い」を配するものだった。
現在のところの最新作となる本作もやはりダメ男とダメ女の話である。
しかし、バブルの頃に就職したOLが書いた小説が大手出版社に認められて作家デビュー、小説は書けないながらもコラムニストとしてメディアに認められているという、おそらく同じ境遇の同性からしたら羨望されるような立場にいる。その主人公の女が「いろいろあったが、これからもっと良くなるかも」という希望を配した小説である。
テレビドラマじゃあるまいし、こんな小説を読みたい人がいるのだろうか。少なくとも私は、「角田光代だもの、このままで終わるわけない」と思いながら読んでいた。
結婚して子どものできた久里子が、後半にもっと関われば物語に広がりと深みができたのではないかと思う。
それに、この小説内で主人公が書いた小説がどれもつまらなそうだった。むしろ山口タエや桐島鉄治の小説にとても惹かれた。角田はこれを書いてくれればよかったのに。
あるいはいっそのこと和歌ではなく、タエの物語にすればよかったのではと思う。桐野夏生が林芙美子を題材にした小説があったのを思い出した。