イスラーム世界のジェンダー秩序――「アラブの春」以降の女性たちの闘い
あたり前のことだがイスラム諸国と一括りにできるわけもない。それぞれの国にそれぞれの事情があり、ジェンダー状況もそれぞれである。
本書は専門の研究者が「アラブの春」を経た諸国(チュニジア、エジプト、バハレーン、サウディアラビア、モロッコ)に絞り、アラブの春を経由して各国のジェンダー状況がどのように発展、あるいは後退したのかを詳細に分析した論文集である。
イスラム外の眼差しというものがある。西欧やアジアからイスラム諸国を見る感情や感傷である。いわく、アラブの女性はイスラム教の被害者であり、開放されなければならないというもの。
本書にあるイスラム女性の「アラブの春」への関わりは、そうした一律の視点が間違いであることを明らかにしている。騒乱において女性が被害を受けながらも主体的に行動した事例は多くある。そもそも、それ以前から社会のあらゆる階層で多くのジェンダー闘争が繰り広げられていた。
そして、その闘争のあり方には各国の状況があり、それぞれの進展がある。
アラブ諸国の国境は植民地政策の結果として引かれた人工的なものであるという、まことしやかな言説がある。こうした進展の差異をみるにつけ、今日ではイスラム諸国における国家は、諸外国と同様に機能しており、それぞれの国民意識も立派に確立していると思わざるをえない。
評論やルポのように読みやすさはないが、概観から個々の事例までを過不足なく取り上げた良書である。