あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス) | ミランダ ジュライ, Miranda July, 岸本 佐知子 | 本 | Amazon.co.jp
ミランダ・ジュライは映画「ザ・フューチャー(未見)」の脚本に行き詰まっていた。そこで、売ります・買いますのフリーペーパー「ペニー・セイバー」で目についた人に「あなたの人生についてインタビューさせてください」と電話をかけまくることにした。本書はそうしてあった人びとについてのフォトドキュメンタリーである。
確かに出会った人びとはどれも面白い。誰も待ち構えていたようにしゃべる、しゃべる。いずれも祖国や人種が違うし、生活環境も違う。それぞれに人生の物語があり、それを話したくて仕方がないようだった。アメリカの「普通の人びと」は日本のそれよりもはるかに多様である。
しかし、それは津村記久子のカバー紹介文ほど感動なものではなかった。それよりもジュライの映画作りのリアリティが興味深い。最初の映画での成功。スポンサー探し。俳優のオーディションなどなど。
元々ジュライは現代アートの人。パフォーマンス・アーティストでもある。「君とボクと虹色の人生」を見て、ヘンな映画だなあくらいにしか思わなかったので「ザ・フューチャー」も見たいと思わなかったが、この本の主要モチーフなのでちょっと興味が出た。
ジュライは、ヨコトリ2008で「通路」という作品を出していた。長い通路に数メートルおきにパネルが突き出していて、そこに「あたなの一番悲しかったことは」とか書いてある。ひとつひとつ質問を噛み締めながら歩くと、反対方向から来た人と途中で出会い、なにか言葉を交わす、という作品だった。
ところでジュライの最初の作品はこんな舞台演劇だったらしい。
女子高校生だったジュライは新聞の企画で囚人と文通することになった。そのやりとりを基に脚本を書き、自宅の部屋でオーディションをしてケースワーカーの中年男性やラティーノの女性を採用。パンクロックのライブハウスで家族や友人、その家族を観客に公演したという。17歳のミランダ・ジュライ、やるなあ。
この本で読み取れるのは、若くしてアートにやられた何でもない少女が、ヘンな映画を作ってアート業界に認められていくという人生。それが一番感動することではないか。