原発と大津波 警告を葬った人々 (岩波新書) 添田孝史
著者は、元朝日新聞の科学部記者で、東電福島原発事故の国会事故調の調査員。
本書は、福島第一原発への津波対策を遅らせ、大事故を引き起こした当事者、そして土木学会、中央防災会議、原子力保安院等の当事者団体を追ったルポである。
今日になっても東電や政府担当者は、津波を「想定外」で「予測不可能」だったと言う。しかし、実際には自らの調査によってそれは予測されていたし、認識されていた。それは多くの隠蔽という行為があったということによっても明らかである。
1998年、津波防災に関連のある省庁が、いわゆる「七省庁手引」なる報告を提出した。これは防災という点から津波の被害を予測したものであり、原発へは直接の言及はない。
しかし、この報告における津波の高さ予測は、福島第一原発の対策を大きく上回るものであり、原発事業には不都合なものだった。
本書では、電事連がこの報告へさまざまな影響力を行使し、ないがしろにしようとした経緯が明らかにされている。
そのひとつが、電事連から資金援助を受けている土木学会津波評価部会が、この「七省庁手引つぶし」を学術的裏付けの面から補助する役割を果たしたこと。
こうした東電や電事連が、学会や学者を権威付けの面からさまざまな方法で活用し、影響力を行使し、原発政策を自社に都合のいい状態する行為が当然のようにあった。そして、それは電力業界にかぎらず各業界でもあるのだろう。
本書ではその組織のキーパーソンへのインタビューも織り込まれているが、その専門の壁に閉じこもり、今日になってもまったく責任を感じていない姿には慄然とする。
本書を読んで学会とはなんだろうかと考えた。権威のある研究者団体が予算とポストと引き換えに恣意的な権威付けを与えるという関係に、良心とか倫理という考えの入る余地はない。
土木学会の行動指針のあまりの形骸化には怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた。
あらゆる研究者が社会的責任のありかたについて、あらためて考えるべき真実が本書にはあると思う。