映画「SHARING」
久しぶりに誰かの解釈や解説がちっとも意味を持たないという素晴らしい映画に出会った。
これは誰かの評判を聞いて見に行くものではなく、誰かの批評を聞いて納得するものでもない。自分で納得するまで考えて判断しなくてはならない映画。5年前に起きて、まだ継続していあの事件のように。だから、これは現代の日本社会が本当に必要とする物語だ。
物語としてはホラー風味の心理劇と言えるかもしれない。
3.11で恋人を失った心理学の大学講師と、被災者の記憶を伝える芝居を作ろうとする大学生が物語の中心なのだが、心に闇を抱えた爆弾魔の青年や、記憶から蘇った講師の恋人などが絡まり合って複雑なストーリーが進行していく。
また、現在と過去と未来、夢と現実が鋭いカットで入れ替わって、希望と破滅が交錯するラストシーンまで油断してみていることが出来ない。
特に恋人が流されたことを受け入れがたい講師と、自分では被災経験がないのにその記憶に憑依される学生のダイアログは、セリフとはウラハラな心のありようが緊張感あふれる切り返しのカットで表現されておりすばらしい。
破滅と希望、記憶と願望、夢と現実、過去と未来など、相反するさまざまな事象がモチーフになっているのだが、その中でも個人的な精神の回復と回復不可能な原発事故をめぐる不条理が最も大きな対立の構図となって物語は終わる。
当初、めまいがするような構成に、これは劇映画として収まるのかと心配になったが、俳優の熱演もあって、最後は手際よくまとまって感動的。
ということで、まぐれもなく傑作なのだが、タイトルが印象に残らなくて損していると思う。また、ポスターのビジュアルもこの映画の魅力を伝えているとは思えない。そこが残念。