「女の民俗誌―そのけがれと神秘」瀬川清子
1980年初版だからずいぶん昔の本のようだが、ここに取り上げられているのはさらに遡った戦前(昭和10年台)に行われた聞き取り調査についてのこと。さらに当時の古老に若い時の風俗や習慣のことを聞くので、話は明治大正のことが中心になる。
それにしても近代の声を聞いても「女のけがれ」にまつわる習慣が全国にまんべんなく存在していたことに驚く。明治時代や大正時代といえば日露戦争、ハイカラ、民権思想の時代をイメージするのではないか。
その時代に農村や漁村では、女性のけがれを避けることが日々の生活に大きな意味を持っていたのだ。
テレビや映画によくある素朴で牧歌的な近代の田舎、その習俗がいかに現代の意識から投影されたものかと目を覚まされた思いがした。
産屋というものがある。出産が近づくと女性は自宅を離れてその粗末な小屋で出産をしなければならない。その間、家族の者は産屋に近づくことや妊婦と会話することは避けなければならない。
まだ出産なら多くても年に1回のことであるが、生理も禁忌とされていた。
忌屋というものもある。家の女性が生理になると自宅を離れてその粗末な小屋で暮らさなくてはならない。生理期間が終わっても自宅に帰る前に、隣家などで一度食事をとってからでなければ帰れない。
つまり女性は月のうち3分の1を忌屋で生活していたことになる。そうした習慣が全国津々浦々にあり、昭和初期になっても残っていたという。
本書はあくまでも民俗学の研究書なのでジェンダーからの視点や主張はない。しかし、日本にはこうした習俗が有史以来継続していたことを意識すると、歴史における普通の人々のあり方が違って見えてくる。