「現代語訳でよむ 日本の憲法」木村草太、柴田元幸
日本国憲法は当時としては画期的なことに口語文で書かれたのだが、今となってはそれでも読みにくい。それもあってか現代の日本人は憲法と親しむとはほど遠い状況にある。
そこで、現代語訳とか若者語訳とか日本国憲法の読み替えの試みがいろいろあるのだが、本書は根本的に違う。なぜなら原典が正文ではなく、1946年の憲法発布時に同時に発行された英文翻訳なのである。
そして、この英語翻訳は憲法制定のほぼ中心にいた組織であるGHQが訳した、きわめて公式性の高いものであると言える。
第11条 国民は、すべての基本的人権の享受を妨げられない。この憲法が国民に保証する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。(正文)
Article 11 The people shall not be prevented from enjoying any of the fundamental human rights. These fundamental human rights guaranteed to the people by this Constitution shall be conferred upon the people of this and future generation as eternal and inviolate rights.(正文翻訳)
第11条 人びとがいかなる基本的人権を享受することも妨げてはならない。この憲法が人びとに保証するこれら基本的人権は、現在の世代・未来の世代の人びとに、永久かつ不可侵の権利として与えられる。(柴原元幸訳)
日本語と英語の置き換え(翻訳)では主語が議論になることが多いが、憲法の主語は誰なのか。天皇?国民?議会? 英文翻訳から憲法解釈という本書の取り組みは、憲法論においても大きな課題を投げかけることになるのではないだろうか。
それにしても憲法英文からは、とても前向きな印象と希望と理想にあふれている印象を受ける。憲法成立の過程に黄禍論など陰謀論を唱える人もいるが、とてもそうは思えない。
むしろマッカーサーを含むGHQ内にあった、国際連合が期待されていた時代の国際民主主義への理想が日本国憲法には織り込まれているのではないだろうかとさえ思える。
英語教育の一環として、あるいは18歳選挙権教育への取り組みとして、英文から憲法を読むという行為を高校生くらいからするべきではないだろうか。本書を読んでそう思った。