原発棄民 フクシマ5年後の真実 : 日野 行介
先日読んだ「ルポ 母子避難」と同じく福島の自主避難者についてのルポ。
あちらはひたすら避難者に寄り添うものだったが、本書は毎日新聞の記者による主に政府と福島県庁など行政の動きを追ったもの。
公式資料の読み込みや省庁担当者の待ち伏せインタビューなど、記者ならではの情報が多い点は評価できるが考察がやや物足りない。
調査対象が行政機関であれば制度設計や立法のあり方にも踏み込んで欲しかった。
また、新聞社としての意見(社説)とその記者である自分の意見は同じだったのかどうか。会社の主張と自分の主張の齟齬についてもっと踏み込めばよかったと思う。個人名で書く書籍にはそれが求められると思う。
ところで、自主避難者への唯一の支援・保障は住宅手当である。ではそれはいくらなのか。それを打ち切る根拠と本当の理由はどこにあるのか。本書から興味深い部分を引用しておく。
(前略)自主避難者分の上限は80億円程度と言える。この程度の予算にもかかわらず、打ち切る必要があるのかを問いかけ、報道する価値があると判断した。
もちろん個人のレベルで考えれば81億円は巨額だ。しかし国の政策レベルで考えればそうとは言えない。みなし仮設の家賃が大半を占める災害救助費は国の復興予算で賄っている。同じ復興予算で見ると、2015年度の除染関連費は6439億円(前年度比1335億円増)。環境省が2013年12月に公表した試算によると、除染費とそれに伴う中間貯蔵施設の整備費は総額で3.6兆円に上る。
その金額を比較しただけで、みなし仮設の打ち切りを急ぐ理由が「金額」にないのは明白だった。一向になされない東電への求償も同様のことが言える。
県外分約81億円に対して、仮に1世帯が2〜3人とすれば、2〜3万人ということになる。これだけの人々の生活に影響するにもかかわらず、この段階に至っても、国や福島県は打ち切りの対象になる戸数と人数を明らかにしていなかった。(190 p)