放浪記(林芙美子)新潮社
「貧乏な私だけど明るく元気に生きていました」という話ではない。
この本から貧しくても明るくけなげに生きていた明治・大正の女性像を読み取る人は、実際の貧困や認められない表現者であるという体験をしたことがないのだろう。当方、失業中の中年アーティストなので、読み続けることが困難なくらい身につまされた。それでも目が離せない。一気に読みきってしまった。
友人、知人に借金。原稿の持ち込みと返却。親への後ろめたさと頼られることへの負担。林芙美子がたまたま成功したからよかったものの、成功せずに消えていった人が圧倒的だろう。林の知古でもある宮崎翠を思い出す。
それにしても、どうしてなけなしの十銭で買い食いするのだろう。どうしてダメな男にせっせと金や食い物を持っていくのだろう。どうして見込みもないのに東京に出てきたり、電車賃つかったりして郷里に帰ったりするのだろう。
まさに貧困の放浪記録である。読み終えてちっとも満足感がない。ただ、ああ、貧乏はヤダヤダと深く思った。しかし、読まなければならなかったものを読んだ、という感想である。林芙美子もそのように読んで欲しいと思っているに違いない。