『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子

著者は国立情報学研究所の先生で「AIを東大に合格させよう」というプロジェクトのリーダー。本書はそのプロジェクトの研究成果から見えたAI開発の限界と、全国の小中学校・大学生25,000人を対象にした基礎読解力テスト(RTS)の衝撃的な結果についての評論。

AIといえどしょせんコンピュータは四則演算をするのであり、ものごとの意味を理解しているわけではないというのが本書前半の骨子。AIの得意とする分野は論理、確率、統計であり、文章や映像の意味を理解させるには膨大なサンプルと教師データが必要になるという。

プロジェクトでは「東大に合格させよう」という目標のために、学科別にさまざまな手法を使って成績を上げていくのだが、その具体的な試行錯誤が興味深い。

結果的に「AIには東大合格は無理」との結論になるのだが、それでもMARCHレベルに合格するまでの実力を持つに至っている。

一方、後半では著者が中心となって実施した基礎読解力テスト(RTS: Reading Skill Test)について詳しく取り上げている。

本テストでは受験者が文章を理解できているのかを判定するために、読解能力を「係り受け」「照応」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定(辞書・数学)」と分類。

このうち「係り受け」「照応」「同義文判定」はAIが得意とするところで、本来の意味での理解ではないものの、AI技術によってかなりの高得点を得ることができる。

しかし、「推論」「イメージ同定」「具体例同定(辞書・数学)」についてはAIは苦手。将来AIに職業を奪われない人材になるためにはこの部分を伸ばすのが得策であろう。しかし、このテストではどの分野でも人間の正答率が低かった。本書にこうある。

全国2万5000人を対象に実施した読解力調査でわかったことをまとめてみます。

・中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない
・学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない
・進学率100%の進学校でも、内容理解を要する読解問題の正答率は50%程度である
・読解能力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高い
・読解能力値は中学生の間は平均的には向上する
・読解能力値は高校では向上していない
・読解能力値と家庭の経済状況には負の相関がある
・通塾の有無と読解能力値は無関係
・読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解力には相関はない

「日本の教育はAIで代替できる人材を養成してきた」というのが著者の批判。AIと学校教育の専門家の意見として、これはあらゆる人が重く受け止めるべきではないだろうか。

本書は優れたAI技術研究のドキュメンタリーであり、日本の学校教育への警世の書でもある。