渡辺京二が「死民と日常 <私の水俣病闘争>」で取り上げていたこの映画、たまたま川崎市民ミュージアムで上映するというので見に行った。
あの有名な蛸獲りのシーンも含めて、ほぼすべてが患者さんとその家族の日常であった。その日常には美しい海と悲惨な病が並存している。そして患者たちが笑顔であることが多いのはカメラを向けられているからだろうか。
当時の日本人はカメラの前で怒りや激しい感情をあらわにすることがなかったのではないか。そんなことを思ってみていたので、本作のハイライトとも言える株主総会のシーンには余計に揺さぶられた。
黒字に白抜きで「怨」の旗がはためき、患者団は白装束の巡礼姿。襟元の同行二人とは死んでいった家族のことか。不遜ながらビジュアルでは圧勝していると思った。
このシーンの迫力は尋常ではない。カメラは患者を上から下から間近に捉え、また壇上の経営陣をなめまわし、患者と相対した社長の表情をアップで撮る。「笑って言うことか」「いや笑っていません」「いや笑った」とのやりとりも延々と。
ニュース映像ではなく距離を置いたドキュメンタリー映像でもなく、体をはった撮影である。患者側に立つという自分の位置を明確に自覚した映像だった。
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