『介助者たちは、どう生きていくのか―障害者の地域自立生活と介助という営み』渡邉琢
今年の参院選でふたりの重度障害者が国会議員になるという画期的なことがあった。選挙戦からその姿を見ており、また初登院の様子などを映像で見ていたのだが、ふと舩後議員と木村議員に寄り添う介助者について気になった。あるときは手足となり、あるときは声となっている介助者たち。それでこの本を読んでみた。
本書は障害者介護の実際と介護(ホームヘルプ)制度について実務者の立場から手際よく説明しており、現在の障害者介護・福祉を概観するのに最適な一冊である。著者の渡邉は現役の介助員派遣コーディネーターである。
私はこの本によって多くのことを学んだ。
「(介護者)手足論」とは介護者は障害者の手足に徹するべきで、気遣いは障害者の自立を阻害するという考え方である。しかし介護者にとっては自分を無にしてサービスに務めるということでもあり、精神的にきつい。そのことへの見直しも議論されているとのこと。
また、障害者介護とは断ることのできないサービスである。それは一般的なサービス業のようにサービスを停止すると当事者の生命維持に直結するからである。しかし、そのことによるコーディネーターへのプレッシャーははかりしれない。必ず誰か代わりを見つけなければならないし、どうしてもいなければ自分が行くしかないわけである。
高齢者介護では当事者(高齢者)の意向を聞くことは敬遠されるのに対し、障害者介護においてはまず当事者の意向を聞き、ときに汲んで毎日の介護にあたるのが普通である。両者は似ているようで、介護者の意識においては正反対を向いている。
そして、障害者介護・福祉の歴史において今日の福祉のあり方が、与えられたものではなく、さまざまな当事者運動によって勝ち取られたものであること。この運動の歴史について書かれた章が本書の焦眉であると思う。
渡邊は今日の障害者福祉が成立するまでの歴史について、多くの介護者や当事者の声を引用しつつ語っている。「青い芝の会」や「グループゴリラ」の時代までは有名な著作もあり、知っている人も多いと思う。本書ではそれ以降の運動、府中療育センター闘争から公的介護保証要求運動など90年代からゼロ年代までの大きな運動についても取り上げている。
今日の障害者介護が成立するまでの、関係者以外は知ることのない現代史である。このような現代史資料はどこにもなかったのではないか。
また、障害者介護・福祉において労働者運動・組合との関係は決して良いものではなく、むしろ対立する面が多い。つまり、労働者の処遇改善はすなわち当事者の不便に直結するのである。考えてみれば労働時間の短縮、時間外労働の拒否は障害当事者の不便なので当然のことである。
しかし、当事者と介護者はただ対立していればいいというものではない。そこでさまざまな関係づくりの試行錯誤が行われ、制度改善の運動・活動も同時並行して行われてきたのである。
海外には障害者が介護者を直接的に雇用してサービスの質に応じて給与を支払うダイレクトペイメント制度というものがあるとして、渡邊は障害者と介護者との雇用関係にも言及している。
現在の制度では介護サービス会社が障害者に代わって国から保険料を受け取り、その一部を登録介護者へ支払い、事務所経費などもまかなっている。そのことが障害者の自立を阻害しているのではないかとの指摘だ。
本書は障害者介護と障害者福祉制度について、幅広い議論の素材を提供しており実務者も研究者も必読の書である。