『障害者の傷、介助者の痛み』渡邉琢
「介助者たちは、どう生きていくのか」の渡邉による、津久井やまゆり園事件以降の評論集。前作と同様、障害者介助の現場からの考察は実際的かつ奥深い。
重度障害者の生活といえば自宅監置か施設かという一般の見方に対し、地域での自立こそが当事者にとって最善、との考えは一貫している。その点から相模原障害者殺傷事件については「なぜ障害者はその施設にいたのか」「そこに行くことになった理由は何なのか」という点から問いかけを始めるのは自然である。
一方で障害者の暴力性と介助者に生じる暴力性についても目を背けない。「いまぶんなぐりたくなった」と思わずつぶやくに至った介助者の心象経緯と、ハーマンの「心的外傷と回復」を踏み台にした自己分析「13. 支援・介助の現場で殺意や暴力と向き合うとき」は本書の焦眉である。
生き残った兵士やレイプされた者など圧倒的な暴力にさらされた者らに共通するのは、孤立感にとらわれることと揺れ動く心だという。それは生まれたときから差別にさらされている障害者にも当然共通するものであり、彼らの一部が時折見せる暴力性はハーマンが指摘するそれと同一のものであると指摘している。
また、渡邉はこうした暴力性は伝染するものであり、介助者がそうした感情にとらわれる可能性は高いとしている。そしてそれを回避するための「つながりの回復」についても言及している。
こうした実体験に基づく現場からの評論は、福祉の拡充が普通に聞かれるようになった今日にこそ、もっと読まれるべきであろう。本書では高齢者介護「運動」の可能性についても章が割かれており、これも興味深い。