『創造された「故郷」: ケーニヒスベルクからカリーニングラードへ』ユーリー コスチャショーフ

『創造された「故郷」: ケーニヒスベルクからカリーニングラードへ』ユーリー コスチャショーフ

バルト海に面したロシアの飛び地「カーリニングラード」。その歴史と建国の経緯を描いた研究書。この土地の歴史は13世紀のドイツ騎士団による建国から始まるのだが、ソ連の統治からその過去がタブーになり語られることがなかった。しかし、本書ではロシアにとってこの土地が最も身近な西欧としていかに魅力的であったかが繰り返し語られる。

近年の経緯については、軍政による略奪と破壊から、文民統治時代における過去の書き直し(地名の変更など)、そして過去と向き合うことになった改革開放時代までを多くの公的資料と聞き取り資料で表現している。

残念ながらソ連崩壊の時期について、それ以降の再び(今度はロシアにとっての)飛び地となってからのことにはほとんど触れられていない。しかし、現地人であったドイツ人をそっくり東ドイツに送り出し、ソ連各地から呼び寄せた移民で構成する国とした建国の経緯と、それでも連綿と続く過去の保存や歴史の見直しの動きは興味深い。

本来縁のない土地からの移民の人々がカーリニングラードを自分の故郷と認識し、その歴史について知りたくなるという心の動き。そこには戦前この土地に住んでいたドイツ人との交流も影響したという。

この本は翻訳ものではない。現地の歴史研究者によるロシア語による描き下ろしを日本語に翻訳したもの。大陸の向こう側の出来事をとらえ企画を実現した研究者と編集者に拍手を送りたい。