「誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠」安冨歩
この有名な児童書は、作者(サン・テクジュペリ)本人も意識することなくモラルハラスメントを描いた傑作であるとしている。極めて興味深い解釈である。
「星の王子さま」は複雑な構造であるが、印象的な登場人物やセリフが散りばめられている。ともすれば雰囲気だけで心温まる物語のように感じる人が多い。
しかし本書によると、これはある日、王子さまの星にやってきたバラによってモラルハラスメントの罠を仕掛けられ、傷心のままひとり星を離れた王子さまが途上でいろいろな人に混乱させられ、あげく自殺してしまうという悲惨な物語である。
特にあの印象的なセリフ「本当に大切なものは…」を放つキツネはセカンドハラスメントをしただけであり、王子さまの自殺の直接的なきっかけとなったとする。
本書に指摘があるように、私もこれまで他愛のない児童書だと思って本気で読んだことはなかったのだが、確かにこれはテグジュペリ自身も意識していない含意にあふれている物語である。
特に、「飼いならし」は方向性のあるものであり、これに対等性という意味はないという当たり前の解釈を、これまでなぜできなかったのかという点。海外文学評論史として興味深いのではなかろうか。
安冨自身も自らを親によるハラスメントのサバイバーであるとしている。そうした経験から読み取れることは多いのだとあらためて思った。