『日本人のための憲法原論』小室直樹

「日本人のための憲法原論」小室直樹

日本国憲法のみならず、民主主義と資本主義の歴史的成立について親しみのある語り口で伝える良書。

そもそも人権という概念は神のもとでの平等という意識から始まり、それにはプロテスタンティズムの普及が必須であった。そこまでは分かるのだが、日本にそれを普及させるために天皇を中心の国にしなければならなかったという理論展開については疑問がある。日本人の平等意識は明治時代になってから急速に生じたのだろうか。

また、資本主義は古来から中国にもあったが、「近代」資本主義は社会の参加者ひとりひとりが心から勤労する気持ちになるというエートスの転換を待たなければならなかったと小室は言う。

その点は納得できるが日本人の場合はどうだったのだろう。日本人の勤勉さを理由付けるのに古来から農耕社会であったことを指摘するのが一般的である。

戦前のみならず戦後の急成長という近代資本主義で成功経験のある日本にはどのようなエートスの転換があったのだろうか。私は日本人にはそうした勤労観がもとからあったように思う。

ところで、ヒトラーによる経済センスが優れており、ケインズ以前に公共投資によってドイツ経済を回復させたことを本書で初めて知った。小室のケインズの有効需要と波及効果(乗数理論)についての説明はわかりやすかった。

しかし、1990年代の政治・経済低迷の原因を官僚にかぶせるところが当時の限界か。今日の自民党政治の無能さについて、あるいは各国に共通してある格差と分断についてどう言うのか小室に聞いてみたい。

日本人の階層意識については宮本常一の「忘れられた日本人」を併せて読むと興味深い。