『忘れられた日本人』宮本常一

忘れられた日本人 (岩波文庫) 宮本 常一

民俗学研究の名著。昭和初期に全国を歩き、地元の古老の話を聞き書きしたもの。

当時の高齢者なのでその若いときの話となると江戸後期から明治、大正時代にかけての話。まさに生きた近代の記録である。

現代の視点から見ると目のさめるような事実がある。例えば女の一人旅が珍しくなく大事にされたこと。大工など職人層が農家の次男三男を吸収するだけのニーズがあったこと。彼らは覚えた技能で各地を転々としていたらしい。

長野県のある村の寄り合いでのものごとの決め方なども興味深い。何かことがあると各村落の責任者が集まって、まさに話が尽きるまで話し合い全員合意で決定する方法が取られていた。

そこには関係のない話もあっただろうし、蒸し返しの議論もあっただろう。効率が優先される現代社会とは逆だが、それは現代の人々の心にも色濃く残っているのではないだろうか。そんなことを思った。

日本人の文化を考えるときに貴族や武家、僧侶など知的階級だけを見ていても仕方ない。そのことを教えてくれる本である。繰り返し読むべき一冊。