映画「チャック・ノリス vs. 共産主義」
再現映像とインタビュー映像による、共産主義時代ルーマニアの地下ビデオ産業を描いた映画。秀逸、タイトルもよかった。
国外からの情報閉鎖状態だった当時のルーマニアでは、非合法ルートで持ち込まれ秘密裏に個人の住宅で行われるビデオ上映会が流行した。そこではアクション、コメディ、サスペンスものなどが上映され、それが閉鎖国家の国民にとって西側の空気を感じる時間でもあった。
主にVHSテープをハンガリーから密輸した者は大儲けしたが、自宅で秘密裏に行われる上映会を主催した者たちも大いに儲けたらしい。
当時見たチャック・ノリスものやカンフー映画などを思い出して大いに盛り上がる当時の若者がインタビューに多く出て、こうしたB級映画が結果的に共産主義社会を侵食していったことは痛快だった。
面白いのがそれらのビデオでは字幕ではなく音声を重ねる方法で翻訳していたこと。しかもほぼすべての同じ女性の声で表現されていた。
それを実際にしていた人が出ているのだが、これは非合法なことで危険なことでもあるのだが楽しくてやめられなかったと言っている。当時、ビデオを見てその声を聞いていた人々が彼女に様々なイメージを投影していたことなども興味深く微笑ましい。
チャウセスクの追放と殺害、国境の開放とともにこの産業は廃れてしまうのだが、こうして映像を見ていた人々の記憶は残る。個人の住宅で警察の取り締まりに怯えながら荒い映像を見ている人々の姿は、自主上映のひとつのかたちだと思う。また、映像というものがいかに社会にインパクトを与えるものかとあらためて感じた。