『流れる星は生きている』藤原てい

流れる星は生きている 藤原てい

引き上げ文学の中心的作品。ノンフィクションだと思われていることが多いが、藤原本人も言っているようにフィクションの部分も多く含んでいる。

引き上げとなったとき長男は6歳、次男は3歳、3女は生後1ヶ月であった。これは長春で夫と別れこうした3人の幼児を連れて、1年がかりで帰国するまでの記録である。

宣川の収容所での1年間の人間関係も厳しい。また、帰国に向けて出発し38度線を徒歩で超える際の地獄絵図。立ち止まれば死ぬと子どもを叱咤しながらの山と川越えは想像を絶する。米軍の収容所や帰国船に乗ってからのプライドを引き裂かれる日々も克明に記録してある。

結局、ひとりも子どもを亡くすことなく実家の長野・諏訪へ帰省を果たし、数カ月後に夫も帰国することになったのだが、そうならなかった引揚者も無数にいたのだろう。また、引き上げ途上で帰国を果たすことなく亡くなった者も。

それから、妻に苦労をかけてひとり帰国した夫の心情を考えるとまたやりきれないものがある。その夫の名は新田次郎である。

戦争の是非とは別に人間がどれだけの辛苦を経験できるのかを思う上で必須の一冊。とても有名な本であるだけに関連論文も多い。

「藤原てい『流れる星は生きている』『灰色の丘』をめぐる「引揚げ」の記憶」末益 智広
「戦後日本社会における「引揚げ文学」と家族愛」末益智広

それから引き上げ体験については平和祈念展示資料館に多くある。
労苦体験手記