映画『牯嶺街少年殺人事件』

映画『牯嶺街少年殺人事件』

80・90年代の台湾映画界はめくるめくばかりの傑作ラッシュ。この映画はそのうちのひとつ。エドワード・ヤン監督が4時間近い作品をよくつくったと感銘を受けたことを思い出した。現在NETFLIXでこの長い版が見られるので数十年ぶりに見てみた。

別に難解な映画ではない。多感な年齢の少年少女が社会に翻弄されながら関係をこじらせていくというだけのストーリー。しかし、60年代の台湾社会背景を理解することは必須だろう。国共内戦後の台湾社会。外省人と内省人の関係。外省人同士の格差。米国文化への憧れなど。

それに主人公をめぐる家族、学校の友だち、抗争するギャング同士などの人物が錯綜して人間関係がわからない。それを親切に説明してくれるテロップもナレーションもない。

しかし、それが主人公である小四(シャオスー)の感覚か、と巻き込まれてみればより映画の世界にどっぷりと浸れる。それはまさに映画を見るという体験であり、歓びである。

主人公の父も母もいい、上の姉も下の姉も。ファム・ファタールの小明(シャオミン)も小馬(シャオマー)も小虎(シャオフー)もよかった。

ひとりひとりの人物にじっくりと取り組んだ結果が4時間の尺なら率直に仕方ないと言える。4時間の尺に納得がいくという意味でも空前の傑作映画である。