『パワー』ナオミ・オルダーマン

『パワー』ナオミ・オルダーマン

突然すべての女性の肉体に備わった電撃能力により男女の立場が逆転する世界を描いた小説。

科学の裏付けを顧みない姿勢、架空の歴史資料・遺跡・遺物を提示していることから、これはSFとは言い難い。また、こうした条件によって社会がどうなるのかという分析があるわけではないので社会シミュレーション小説とも言い難い。

しかし、現状の男性社会へのほぼ憎悪とも言える厳しい姿勢は一読に値する。女性がこんなにも男性に恐怖と怒りを持って日々を過ごしているのだという認識を、世の男性一般に突きつける。

小説としては時間軸の構成や結末のあやふやさで完成しているとは言い難い。また、性の対立ばかりをクローズアップしており、男女の親和性は顧みられないなど、文学としての完成度も低い。しかし、その迫力はただごとではない。その迫力だけでも読む価値はある。

「指先ひとつでこの瞬間にもこの男に苦痛を与えることができる。もちろん命を奪うことさえも」という感覚を女性が日常的に持つ。そのことで職場で男性に遮られ、軽視されていた女性のふるまいや意識がどのように変わるのか、男性がどんなに卑屈になるのか。この社会では人権を保護されるのは女性ではない、男性の側なのだ。

また、男性がひとりで夜道を歩くとき、女性たちが道端にいるだけでレイプの恐怖に怯えなければならない。実際にそうした事件が多いから。

この小説は現状の女性の状況をそうして反転してみせる。本書の読みどころはそこにあると思う。

渡辺由佳里による同書解説全文はこちら