『宇宙消失』グレッグ イーガン

「宇宙消失」グレッグ イーガン

「時間軸」という今どきのラノベで消費される単なる「仕掛け」とは違い、量子宇宙論、ナノテクノロジー、大脳生理学を素材にハードSFの素晴らしさを堪能させてくれる傑作SF小説。

ある日冥王星の外側にすっぽり太陽系を覆う構造物ができてしまい、その他の宇宙から隔離されてしまった世界。閉ざされた部屋から壁抜けをしたという記録のある女が誘拐され、主人公のニックは調査員としてその女の捜査をすることになる。

普及した「モッド」というナノマシンによって大脳生理を操作することが当たり前になった世界。「波動関数の収縮」を可能にするモッドによって人類は物理世界の状態を思いのままにする能力を手に入れることになるのか。人類が宇宙的隔離された理由とは何か。それらの謎がやがて明らかになる、というストーリー。

1999年の作品だからもう20年前だが最先端科学理論をストーリーに見事に昇華させており、まさに知的興奮を堪能させてくれる。前野昌弘の科学解説も素晴らしい。これはSFのオールタイム・ベストの一冊であろう。