「サハリン島」エドゥアルド・ヴェルキン
核兵器と生物兵器によって破滅した世界で、日本だけは唯一の文明国として生き残っている時代。日本が接収した国境の地であり監獄の地でもあるサハリン島を未来学者の美少女とその護衛が旅するというポスト・アポカリプスSF。
ロシア人作家が日本社会を舞台にサハリン島を舞台にしたというだけが目新しい平凡なSF小説だった。
マッキントッシュのコートの下に二丁拳銃を隠し持つロシア・日本人ハーフの美少女未来学者とその護衛役の「銛族」の若者が、犯罪と不正と疫病の蔓延する無法地帯を旅するという、マンガやゲーム、アニメにありそうな設定。
ワクワクとした展開がスピーディにすすみ、エンディングにはそこはかとない悲哀が漂うというよくできたシナリオであるが、これは優れた文学とは言えない。長くて(386p)時間つぶしに良いという利点があるのみ。
ただ、この世代のロシアの作家がどうしてこういう小説を書いたのだろうということは気になる。世界戦争で生き残り、唯一文明を保持しているが、国境地帯では中国人や朝鮮人を虐殺している。ロシアはすでに滅び去っており、アメリカ人は見世物として檻で飼われているという日本社会。
小説なので何を書いても構わないのだが、これを翻訳し読んでいる日本人は居心地悪くならないのだろうか。この作家は素朴な日本ファンである「だけ」とは言えなのではないか。そう考えるのは穿ち過ぎだろうか。