「82年生まれ、キム・ジヨン」チョ・ナムジュ
現代に生きる韓国の女性の生きづらさを綴った小説。韓国社会の状況を知る上で興味深い。
制度的には恵まれているように見える韓国の現代女性だが、実際は各世代の男女の考え方などに残る男性中心主義に悩むことが多いとのことだ。
この小説でも主人公のキムには理解のある夫と幼い子どもがいるが、いつしか精神を病み、回復については最後まで明らかでない。
そういう物語だが、しかし、別に小説でなければならない理由は見当たらない。同じテーマの解説書がいくつもありそうな気がするし、論文やエッセイの方が納得しやすいと思う。物語は水底に触れて浮かび上がり普遍へと向かうものではないのか。
社会や制度に翻弄され、それでも生きていく、あるいは滅んでいく女性の姿は日本でも多く描かれている。古典では林芙美子(放浪記、浮雲)、現代では桐島洋子のエッセイを思い出す。海外ものでは「メイドの手帳(ステファニー・ランド )」がそうだった。
ところで、この小説で韓国の政治制度(大統領制)の弊害についても考えさせられた。確かに韓国では女性活躍制度の導入は早いのだが、この本にあるように制度の対象となる女性があまり幸せになっていない。それは制度を早く整えることに熱心でも社会や国民一人ひとりがそれに追いついていないと読み取れる。
翻って日本を考えてみると社会制度の設計者(議員や官僚)に現実との乖離があるのだ。社会の意識を制度に具体化する部分、つまり選挙制度にボトルネックがあるのだろう。
両国とも社会・政治制度のどこに問題があるのはわかっているのだが改善に向けて進んでいかない。ひとことで言えば両国とも停滞しているのだ。