『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』ホアン・フイチェン
先日見たドキュメンタリー映画の監督による同名のエッセイ集。
台湾の貧しい地方で育ち、早くして結婚した母は夫からの暴力に苦しむことになった。そして幼い娘たちを連れての逃避行。
その母はレズビアンであり次々とパートナーを変えた。一方、父は娘である私(著者)には暴力と執拗な執着だけを記憶に残している。
また、本書では、妹について、家について、遠い存在であった親戚についてを思い出しつつ、これまでの人生を振り返っている。
私が特に興味深かったのは、この母が生きる糧とした台湾独自の葬儀文化、陣頭であり牽亡歌陣である。
台湾では葬儀の度に陣頭という死者を弔いあの世へ送り出すための儀式を執り行う。しかし、葬儀の儀式とはいえ日本人が想像するようなしんみりしたものではなく、にぎやかな音楽と踊りのある派手なものだ。
その民俗芸能を演ずるのが牽亡歌陣である。著者もこの牽亡歌陣に6歳から加わり演じてきた。以下にその映像がある。
今日ではすっかり衰退してしまったこの葬儀文化だが、本書には台湾の葬儀社の日常や葬儀の場の様子などが内部から克明に書いてあり、文化資料としては極めて貴重なものだと思う。
日本語でこれに関する資料はまず皆無ではないだろうか。その意味でも本書の日本語訳の意味は大きいと思う。
先日読んだ「私がホームレスだったころ」にもホームレスが出陣頭で稼ぐことがあると記されている。他国を理解するためには文化民俗への興味が必須であるとあらためて感じた。