『未来への大分岐』マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、プール・メイソン、斎藤幸平(聞き手)

『未来への大分岐』マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、プール・メイソン、斎藤幸平(編著)

『人新生の資本論」の齋藤幸平による現代思想家との対談集。

現代の左派思想、特に海外のそれを概観するという価値がある。斎藤としては脱成長、反資本主義、環境正義をテーマとしたかったようだが、相手が乗ってくる場合もあり、そうでない場合もあり。


『帝国』のマルクス・ガブリエルと対談では、ウォール街占拠運動とサンダースについて。また、ダコタ州スタンディングロックでのスー族の運動についてが興味深かった。スー族の主張は原住民としての権利の主張ではなく「人類と地球との新たな関係」を訴えているという。

他にもアルゴリズムの自主管理、ベーシックインカム批判、ポピュリズムとマニュシパリズムの違いなどにも触れている。


『欲望の資本主義』のマイケル・ハートとの対談では「ポスト真実(Post-Truth)」と「相対主義」をテーマに今日の政治危機を語る。

これらへの解決策として「新実存主義」と「熟議型民主主義」があるらしい。私はまだ読んでいないので興味を持った。

「(グローバルサウスという)見えないものを見ようとしない先進国社会」「洪水よ我が亡き後に来たれ(マルクス)」とか「トランプ、プーチン。それからAIが来る」など興味深い議論が続く。特にポストモダン言語を操るプーチン露大統領については今日的な話題だった。


『ポストキャピタリズム』のポール・メイソンは主に情報技術のインパクトと情報社会の今後に興味があるらしい。

(メイソン)ここまでで話をした四つの要因の影響をまとめると、情報技術の発展によって、利潤の源泉が枯渇し①、仕事と賃金は切り離され②、生産物と所有の結びつきも解消されるでしょう③。そして、生産過程もより民主的なものになっていきます④。
その結果生じるのは、人々が強制的義務的な仕事から解放され、無償の機械を利用して必要なものを生産する社会です。そして、100%再生可能エネルギーと天然資源の高いリサイクル率が実現される「潤沢な社会」となるでしょう。(p 255)

それを阻む要因として「①市場の独占―限界費用ゼロ効果に対する抵抗、②ブルシット・ジョブ―オートメーション化に対する抵抗、③プラットフォーム資本主義―正のネットワーク効果への抵抗、④情報の非対称性をつくり出す―情報の民主化への抵抗」とある。

興味深い議論ではあるがウィキペディア、オープンソースへの評価が高すぎるように感じた。


本書は現代思想を網羅した興味深い対談集ではあるがあくまでもオーバービューである。個々の思想についてはそれぞれの書籍にあらためて当たるべきものと思った。

私は特に、ウォール街占拠運動とその後について、そして米国のグリーンニューディールの評価についてもっと知りたいと本書を読んで思った。