『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』ベス・メイシー
『ペイン・キラー/死に至る薬』を観て読むことにした一冊。オピオイド危機の導入からパデュー社裁判の判決、さらに今日になっても未だ終わらない危機と悲劇についても取り上げている。
特筆すべきなのは、薬物依存治療として「ハーム・リダクション(被害の低減)」を挙げていること。
治療に当たってはかつてナンシー・レーガンが言った(Just say no)、薬物を一切断つという方法は、実は効果が低いことが支援者の間では認知されている。
つまり適切な薬品を適度に摂取しながら社会復帰を目指すべきとの考えで、これが一般的になりつつある。しかし、まだ一般社会では否定的な見方もすくなくないとのこと。
ところで、本書にあるように米国の製薬会社のマーケティング手法には決定的に倫理観が欠けていると言わざるを得ない。
製薬会社の営業担当は「最近工場が閉鎖し、失業者の多い地方」「その地方の医師」をターゲットに営業攻勢をかけるべきとしている。つまり、失業者は習慣性ある麻薬依存者として最適な対象であるという意味だ。これはまさに、企業による麻薬ディーラー事業ではないか。
これが資本主義の行き着く果であれば米国社会は紛れもなく最先端を行っていると言える。
偶然YouTubeでフィラデルフィアの街角を毎日レポートしているチャンネルを見つけて定期的に見ているのだが、その荒廃ぶりに愕然とした。これが薬物蔓延の日常である。