『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』吉田裕

『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』吉田裕

日本軍および将兵の研究書は多くあり、この本も特に新しい調査・研究成果があるわけではない。しかし、繰り返しこの無意味な悲惨を語り続けることにこそ価値がある。「本当は強かった日本軍隊」がまことしやかに受け止められている現代にこそ。

戦病死と餓死、海没死と特攻、自殺と処置、兵士の体格、病んでいく精神、装備・銃器・戦車の彼我の差の拡大、当局の対応の不在、時代遅れの通信機器。特に虫歯の件は壮絶。

「行軍中、歯磨きと洗顔は一度もしたことがなかった。万一、虫歯で痛むときは、患部にクレオソート丸(現在の正露丸)を潰して埋め込むか、自然に抜けるのを待つという荒療治である。(後略)」

実証的調査研究から明らかなこれらの事実に現在の「夢見る者たち」はどのように答えているのだろうか。

むしろそれら、単純に見たくないものを見ない、なかったことにする現代の「夢見る者たち」の精神構造こそ興味深いのではないかと思う。